退職して収入が途切れているのに、国民年金の納付書だけは毎月届く。この状態に不安を感じている方は少なくありません。会社員のうちは給与から天引きされていた保険料が、退職した翌日から全額自己負担に変わるためです。
国民年金には、失業した人のために所得の審査方法を変える「特例免除」があります。この記事では、特例免除が使える条件、免除と納付猶予のどちらを選ぶかの判断材料、いつからいつまでの分を申請できるのか、そして将来の年金額にどう響くのかを、日本年金機構の公表内容にもとづいて整理します。
失業・退職なら前年所得ゼロで審査される特例免除がある
会社を退職して次の勤務先が決まっていない場合、厚生年金の資格を失った日(退職日の翌日)から国民年金第1号被保険者となり、自分で保険料を納めることになります。日本年金機構「会社を退職したときの国民年金の手続き」によると、この切り替えは退職日の翌日から14日以内に、市区町村の国民年金窓口・年金事務所・マイナポータルの電子申請のいずれかで行います。
日本年金機構が公表する令和8年度の国民年金保険料は、1カ月あたり17,920円です。12カ月分をそのまま試算すると215,040円になり、収入が止まっている時期の家計には重い金額です。
ここで使えるのが失業による特例免除です。日本年金機構「【転職をご検討中の方へ】国民年金の加入、保険料免除・納付猶予制度のご案内」は、退職による特例免除について「退職した方の前年所得をゼロとして審査を行います」と説明しています。前年に会社員として相応の収入があった人でも、その所得を理由に門前払いされない仕組みです。
前年所得がゼロとみなされるのは、退職した本人の分だけです。世帯主・配偶者がいる場合は、その方の前年所得が通常どおり審査されます。実家暮らしで世帯主である親に収入がある、共働きの配偶者が働き続けている、といったケースでは承認されないこともあります。免除されるかどうかは審査の結果で決まります。
免除4区分と納付猶予の違い早見表|2026年版の所得基準と年金額
日本年金機構「国民年金保険料の免除制度・納付猶予制度」によると、免除には全額・4分の3・半額・4分の1の4種類があり、これとは別に納付猶予制度があります。承認基準と将来の年金額への反映は次のとおりです。
| 区分 | 前年所得の承認基準 | 令和8年度に納める月額 | 老齢基礎年金への反映 |
|---|---|---|---|
| 全額免除 | (扶養親族等の数+1)×35万円+32万円 | 0円 | 2分の1 |
| 4分の3免除 | 88万円+扶養親族等控除額+社会保険料控除額等 | 4,480円 | 8分の5 |
| 半額免除 | 128万円+扶養親族等控除額+社会保険料控除額等 | 8,960円 | 8分の6 |
| 4分の1免除 | 168万円+扶養親族等控除額+社会保険料控除額等 | 13,440円 | 8分の7 |
| 納付猶予 | (扶養親族等の数+1)×35万円+32万円 | 0円 | 反映なし |
| 未納のまま | — | — | 反映なし |
反映の割合は平成21年4月以降の承認期間の数字です。全額免除と納付猶予は所得の基準式が同じですが、審査の対象者に決定的な差があります。免除は本人・配偶者・世帯主の3人を審査するのに対し、納付猶予(20歳以上50歳未満が対象)は本人・配偶者だけを審査し、世帯主の所得審査がありません。実家暮らしで親の所得が基準を超えて全額免除が却下された場合でも、納付猶予なら承認される可能性が残ります。
引き換えに失うものもあります。納付猶予の期間は受給資格期間にはカウントされる一方、年金額には反映されません。全額免除であれば、保険料を全額納付した場合の2分の1(税金分)を受け取れます。同じ「0円」でも将来の年金額は別物です。
免除・納付猶予を受けた期間の保険料は、10年以内であれば追納できます。日本年金機構によると、1年分を追納した場合に増える年金額は、全額免除の期間で年間約1万円、納付猶予や学生納付特例の期間で年間約2万円です。追納した保険料は全額が社会保険料控除の対象になるため、再就職した年にまとめて納めると所得税・住民税の負担も軽くなります。
未納のまま放置する選択だけは避けたいところです。日本年金機構は、障害の原因となった病気やけがの初診日の属する月の前々月までの被保険者期間のうち、保険料納付済期間(免除期間を含む)が3分の2未満の場合、障害基礎年金が支給されないと説明しています。免除の承認を受けていれば、この納付要件の計算に含まれます。
特例免除の対象期間と申請期限|失業の前月から2年1か月さかのぼれる
いつからの保険料が免除の対象になるのかは、日本年金機構「国民年金保険料の免除等の申請が可能な期間」に明記されています。押さえるべき起点は3つです。
- 対象の開始月:災害や失業等のあった月の前月から免除を受けられます。
- 「失業した日」の定義:離職日の翌日です。12月31日に離職した場合は、翌年が事由の発生年として扱われます。
- さかのぼれる限界:保険料の納付期限から2年を経過していない期間、つまり申請時点から2年1カ月前までです。
見落とされやすいのが年度の区切りです。免除等の「年度」は7月から翌年6月までで、申請書1枚で申請できるのは1年度分に限られます。2026年(令和8年)8月末に退職した場合、令和8年度分(令和8年7月〜令和9年6月)の申請書を1枚提出し、令和9年7月以降も免除を続けたいなら令和9年度分の申請書をあらためて出すことになります。
全額免除や納付猶予の承認を受けた人は、翌年度以降は継続して申請があったものとして審査(継続審査)されます。ところが日本年金機構は「失業等による特例免除承認者は翌年度も申請が必要です」と明記しています。特例免除は自動更新の対象外で、放置すると翌年度分が未納になります。再就職が決まらないまま年度をまたぐ場合は、7月に申請書を出し直してください。
一度却下された経験がある方も、申請をあきらめる必要はありません。日本年金機構は、過去に却下となった期間でも申請できる場合として、失業等の事由で申請したが申請が遅れて特例免除が認められなかった場合、却下後に税の修正申告等で本人・配偶者・世帯主の所得が変わった場合、却下後に離婚や世帯主の変更があった場合を挙げています。
退職日別の手続き早見表|切替日と免除申請チェックリスト
退職日が月末か月中かで、国民年金第1号としてどの月の保険料から発生するかが変わります。日本年金機構が示す資格取得日のルールにもとづき、2026年8月に退職した場合を試算すると次のようになります。
| 退職日(例) | 第1号の資格取得日 | 保険料が発生する最初の月 | 令和8年度分(〜2027年6月)の保険料の試算 |
|---|---|---|---|
| 2026年8月31日(月末退職) | 2026年9月1日 | 2026年9月分 | 17,920円×10カ月=179,200円 |
| 2026年8月15日(月中退職・再就職なし) | 2026年8月16日 | 2026年8月分 | 17,920円×11カ月=197,120円 |
| 2026年8月15日退職→8月20日に再就職 | 2026年8月16日 | 発生しない(8月末時点で厚生年金の第2号のため) | 0円 |
令和8年度の保険料月額17,920円をもとにした編集部の試算です。実際の納付額と免除の承認範囲は年金事務所・市区町村窓口の審査で決まります。
月中に退職して同じ月のうちに次の会社へ入社した場合、その月の末日時点で厚生年金の被保険者であれば、国民年金保険料を納める必要はありません。逆に月末退職では、厚生年金の保険料が退職月分まで最終給与から控除される点と合わせて確認しておくと、退職月の手取りの見通しが立てやすくなります。
申請時にそろえる書類は次のとおりです。
- 国民年金保険料免除・納付猶予申請書(年金事務所・市区町村窓口で入手、またはねんきんネットで作成)
- 失業の事実を確認できる書類のコピー(雇用保険被保険者離職票、雇用保険受給資格者証、雇用保険受給資格通知のいずれか)
- 基礎年金番号通知書・年金手帳、またはマイナンバーカード
- 運転免許証・パスポート等の本人確認書類(マイナンバーカードがない場合)
同一の失業等の事由ですでに証明書類を添付したことがある場合、再度の添付は不要です。提出先は住所地の市(区)役所・町村役場の国民年金担当窓口か年金事務所で、郵送とマイナポータルからの電子申請にも対応しています。加入手続きから約2週間後に納付書が届き、免除申請の審査結果はおおむね2カ月後に通知されます。納付書が先に届いても、審査結果を待ってから対応して差し支えありません。
よくある質問
Q. 失業していれば国民年金の保険料は必ず免除されますか?
免除されるとは限りません。特例免除で前年所得をゼロとみなしてもらえるのは退職した本人の分だけで、世帯主・配偶者の前年所得は通常どおり審査されます。承認されるかどうかは審査の結果次第です。
Q. 離職票を会社から受け取れていません。何で失業を証明できますか?
ハローワークから交付される雇用保険受給資格者証、または雇用保険受給資格通知のコピーでも証明できます。失業手当の手続きを先に進めている場合は、そちらの書類を使えます。
Q. 免除を受けると将来の年金はどのくらい減りますか?
日本年金機構が示す目安では、40年間納付した老齢基礎年金が年847,300円であるのに対し、40年間全額免除だった場合は年423,650円です。1年分を追納すれば全額免除の期間で年間約1万円が回復します。
Q. 全額免除と納付猶予はどちらを申請すべきですか?
年金額への反映を重視するなら全額免除です。全額免除は納付した場合の2分の1が年金額に反映され、納付猶予は反映されません。世帯主である親の所得が高く全額免除が難しい場合に、世帯主の所得審査がない納付猶予が選択肢として残ります。
Q. 退職から半年間放置してしまいました。今から申請できますか?
申請時点から2年1カ月前までの期間はさかのぼって申請できます。申請が遅れると障害年金・遺族年金を受けられない恐れがあるため、気づいた時点で早めに手続きしてください。
退職日が決まったら進める3つの手順
- 退職日の翌日から14日以内に、市区町村窓口かマイナポータルで国民年金第1号への切り替えを済ませる
- 切り替えと同時に免除・納付猶予を申請し、失業の証明書類(離職票または雇用保険受給資格者証)のコピーを忘れずに添付する
- 世帯主・配偶者の所得で全額免除が難しそうな場合は、年金額に反映されない点を理解したうえで50歳未満なら納付猶予も検討する
- 再就職が決まらないまま7月を迎えたら、翌年度分の申請書を出し直す(特例免除は継続審査の対象外)
- 収入が戻ったら10年以内に追納し、社会保険料控除も活用する
国民年金の免除は、退職後に発生する手続きのひとつにすぎません。健康保険の選択や住民税、失業手当の申請とは期限が異なるため、全体のスケジュールを一度まとめて確認しておくと取りこぼしを防げます。
出典:日本年金機構「国民年金保険料の免除制度・納付猶予制度」、日本年金機構「国民年金保険料の免除等の申請が可能な期間」、日本年金機構「国民年金保険料の追納制度」、日本年金機構「国民年金保険料」
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