転職先を探し始めたものの、自己都合で辞めたときの退職金がいくらになるのか読めないという方は少なくありません。就業規則の退職金規程を開いても「基本給に支給率を乗じた額」としか書かれておらず、金額のイメージが持てないまま日が過ぎていきます。そんな状態で退職日を決めるのは不安なものです。
退職金の相場は、退職理由を「自己都合」に絞った数字が公的統計として実際に公表されています。この記事では、厚生労働省と中央労働委員会の調査から自己都合退職の平均額を確認し、定年退職との差額、そもそも受け取れるかどうかを分ける勤続年数の条件、そして自分の金額を退職前に確かめる手順までを整理します。
自己都合の退職金相場|公的統計でわかる平均額の早見表
自己都合退職の退職金には、性質の異なる2つの統計があります。片方だけを見ると金額の感覚が大きくずれるため、まず両方を並べます。
1つ目は、中央労働委員会「令和7年賃金事情等総合調査」です。資本金5億円以上かつ労働者1,000人以上の企業を対象とした調査で、令和7年は380社を選定し207社から回答を得ています(回収率54.5%)。令和6年度の1年間に実際に支払われた1人当たり平均退職金額は、次のとおりです。
| 退職事由 | 平均退職金額(調査産業計) | 集計社数 |
|---|---|---|
| 定年退職 | 1,936万8千円 | 90社 |
| 会社都合 | 1,503万1千円 | 43社 |
| 自己都合 | 501万2千円 | 96社 |
自己都合の501万2千円は、勤続年数を問わず自己都合で退職した人すべてを平均した金額です。前回の令和5年度調査では487万5千円でしたので、水準はほぼ横ばいで推移しています。金額には退職年金の掛金(事業主負担分)の現価額が含まれます。
2つ目は、厚生労働省「令和5年就労条件総合調査」です。常用労働者30人以上の民営企業が対象で、勤続20年以上かつ45歳以上の退職者に限った1人平均退職給付額が学歴・職種別に公表されています。
| 区分 | 定年 | 会社都合 | 自己都合 |
|---|---|---|---|
| 大学・大学院卒(管理・事務・技術職) | 1,896万円 | 1,738万円 | 1,441万円 |
| 高校卒(管理・事務・技術職) | 1,682万円 | 1,385万円 | 1,280万円 |
| 高校卒(現業職) | 1,183万円 | 737万円 | 921万円 |
「自己都合=約1,400万円」と「自己都合=約500万円」はどちらも正しい数字です。前者は勤続20年以上かつ45歳以上に絞った条件付きの平均、後者は勤続年数を絞らない全体の平均という違いがあります。自分がどちらに近いかで、参考にすべき数字が変わります。
定年退職との差額は約450万円|自己都合で減る金額の事例
令和5年就労条件総合調査の数字から、同じ勤続20年以上かつ45歳以上でも、退職理由が定年か自己都合かで金額がどれだけ変わるかを差額として計算すると、次のようになります。
| 区分 | 定年との差額 | 減少率の目安 |
|---|---|---|
| 大学・大学院卒(管理・事務・技術職) | 455万円 | 約24% |
| 高校卒(管理・事務・技術職) | 402万円 | 約24% |
| 高校卒(現業職) | 262万円 | 約22% |
減少率はいずれも2割強に収まっており、学歴や職種が変わっても「定年の8割弱」という関係はおおむね共通しています。
勤続年数が短いほど金額そのものが小さくなる点も押さえておきたいところです。中央労働委員会の令和7年調査には、大学卒の事務・技術(総合職)が会社都合で退職した場合のモデル退職金額が勤続年数別に示されています。勤続3年で74万円、5年で129万8千円、10年で333万円、20年で952万3千円、30年で2,009万9千円という水準です。
上のモデル金額は会社都合の場合の水準です。同じ勤続年数でも自己都合はこれを下回るのが一般的で、金額の上限側の目安として見てください。自己都合のモデル金額は調査結果の概要には掲載されていないため、勤続年数別の自己都合の相場を1つの数字で示すことはできません。
相場より先に確かめたい2つの前提条件
退職金の相場を調べる前に、そもそも自分が受け取れる立場かどうかを確認しておくと、判断を誤らずに済みます。前提は2つあります。
1つは、会社に退職給付制度があるかどうかです。令和5年就労条件総合調査によると、退職給付(一時金・年金)制度がある企業の割合は74.9%で、4社に1社は制度そのものがありません。企業規模別では1,000人以上が90.1%、300〜999人が88.8%、100〜299人が84.7%、30〜99人が70.1%と差があります。平成30年の同じ調査では80.5%でしたので、制度を持つ企業の割合は5年間で低下しています。
もう1つは、退職一時金を受け取るのに必要な最低勤続期間です。中央労働委員会の令和7年調査では、自己都合で退職した場合に「3年以上」の勤続を要件とする企業が131社中67社(51.1%)で最も多く、会社都合(定年を含む)では「1年未満」とする企業が76社(58.0%)で最多でした。同じ会社でも、辞め方によって受給ラインが違う設計になっています。
退職金は法律で支給が義務づけられた制度ではなく、支給の有無・金額・要件は各社の就業規則や退職金規程で決まります。制度がない、あるいは勤続年数の要件を満たさないという理由で支給されなくても、それ自体が違法になるわけではありません。
自分の退職金額を確認する3ステップと計算方法
相場はあくまで全体の平均です。自分の金額に近づけるには、次の順で確認していきます。
- 就業規則とあわせて「退職金規程」を入手し、支給要件(勤続年数の下限)と自己都合の減額率を読む
- 規程に書かれた算定方式を特定する(基本給連動型・ポイント制・別テーブル制・定額制のいずれか)
- 算定に使う自分の数値(勤続年数、退職時の基本給、累計ポイント、等級)を給与明細や人事に確認する
算定方式は会社によって異なります。中央労働委員会の令和7年調査では、退職一時金制度がある134社のうち、退職時の実額(基本給など)を算定基礎とする企業は17社(12.7%)にとどまり、それ以外が116社(86.6%)でした。実額以外を基礎とする116社の内訳は、等級や職務、勤続年数を点数(ポイント)に置き換えて計算するポイント方式が94社(81.0%)、勤続年数と別のテーブルで算定する別テーブル方式が16社(13.8%)です。基本給に支給率を掛けるだけの計算式を想定していると、実際の金額と食い違うことになります。
税金の扱いも金額を左右します。国税庁「No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)」によると、退職所得控除額は勤続20年以下の場合が「40万円×勤続年数(80万円に満たない場合には80万円)」、20年超の場合が「800万円+70万円×(勤続年数-20年)」です。課税対象となる退職所得の金額は「(収入金額-退職所得控除額)×2分の1」で計算します。勤続10年なら控除額は400万円ですので、自己都合退職の平均額に近い水準であれば、税負担は軽く済むケースが多くなります。「退職所得の受給に関する申告書」を勤務先へ提出していれば、原則として確定申告は必要ありません。
よくある質問
Q. 自己都合退職だと退職金はどのくらい減りますか?
令和5年就労条件総合調査で勤続20年以上かつ45歳以上を比べると、大学・大学院卒(管理・事務・技術職)は定年1,896万円に対して自己都合1,441万円で、差額は455万円です。高校卒(管理・事務・技術職)は402万円、高校卒(現業職)は262万円の差でした。減少率はいずれも2割強です。
Q. 勤続3年未満で自己都合退職した場合、退職金は出ますか?
会社の規程しだいです。中央労働委員会の令和7年調査では、自己都合の場合に勤続3年以上を要件とする企業が51.1%で最も多く、大企業では半数が3年未満に支給しない設計でした。1年未満で支給する企業も131社中7社あり、判断は退職金規程を読んで確認してください。
Q. 退職金がない会社は違法ですか?
違法ではありません。退職金は法律上の義務ではなく、各社が就業規則や退職金規程で定めるものです。令和5年就労条件総合調査では、退職給付制度がある企業は74.9%、常用労働者30〜99人の企業では70.1%でした。
Q. 退職金に税金はかかりますか?
退職所得として課税されますが、退職所得控除があります。勤続20年以下は40万円×勤続年数(最低80万円)、20年超は800万円+70万円×(勤続年数-20年)が控除され、残額の2分の1が課税対象です。
Q. 退職前に会社へ退職金の見込額を聞いてもよいのでしょうか?
問題ありません。退職金規程は労働者が閲覧できる状態に置かれているものですし、人事や総務に見込額の試算を依頼できる会社もあります。退職を切り出す前に確認したい場合は、規程の閲覧から始めると意思を伝えずに調べられます。
Q. 自己都合だと失業手当も減りますか?
失業手当の日額そのものは退職理由で変わりませんが、自己都合退職には給付制限期間があり、受け取り始める時期が遅くなります。所定給付日数も会社都合より短く設定されています。
退職日を決める前に確認する3つのこと
- 退職金規程を入手し、支給要件の最低勤続年数と自己都合の減額率を先に読む(大企業では勤続3年が最も多い要件)
- 自分が「勤続20年以上かつ45歳以上」に当てはまるかで、参考にする相場を1,441万円側と501万円側に使い分ける
- 退職金だけで生活設計をせず、失業手当の受給開始時期や社会保険の切り替え費用とあわせて資金計画を立てる
退職金の見込額がわかると、転職活動に充てられる期間の上限が具体的な月数として見えてきます。退職後に受け取れるお金は退職金だけではありませんので、給付金や手当を含めた全体像を先に把握してから退職日を決めると、収入の空白を短くできます。
出典:厚生労働省「令和5年就労条件総合調査 結果の概況」、中央労働委員会「令和7年賃金事情等総合調査」、国税庁「No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)」
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