退職の手続きを調べていて、「失業保険はもらわない方がいい」という見出しに出会い、手が止まった方もいるのではないでしょうか。理由として挙げられるのは、たいてい「受給すると雇用保険の被保険者期間がリセットされるから」の一点です。この言い回しは大ざっぱで、そのまま受け取ると判断を誤ります。厚生労働省の資料で何がどんなときに引き継げなくなるのかを確認し、受け取らない選択で動く金額を試算したうえで、もらわない判断が成り立つ条件を整理します。
受け取らない判断が成り立つのは3つのケースです
失業手当は、ハローワークで求職の申込みをして受給資格の決定を受けなければ1円も支給されません。受け取らない選択に金銭面の見返りがあるとすれば、後で説明する算定基礎期間が引き継がれる点だけで、それが手元の支給額を上回る場面はかなり限られます。
- 次の勤め先の入社日が近く、待期の7日間と給付制限を挟むと支給対象になる日がほとんど残らない
- 病気・けが・妊娠・出産・介護などで、当面は働ける状態にない
- 就職の意思がなく、求職活動をする予定もない
2つ目は「もらわない」ではなく「今は申請しない」が正確な表現です。受給期間は原則として離職日の翌日から1年間ですが、引き続き30日以上働けない事情があるときは、申請により最長3年まで受給期間を延長できます。療養してから受け取る形にすれば、権利を捨てずに済みます。
3つ目は、そもそも受給資格の要件を満たしません。ハローワークインターネットサービスによると、基本手当は就職しようとする積極的な意思と就職できる能力があるのに職業に就けない方が対象です。働く予定がないのに申請し、実態と異なる申告をすれば不正受給となります。
「もらうとリセット」の正体は算定基礎期間です【2026年版】
厚生労働省・都道府県労働局・ハローワークのリーフレット「失業給付(基本手当)の所定給付日数の基礎となる被保険者であった期間について」は、所定給付日数は「雇用保険の被保険者であった期間(算定基礎期間)によって決定されますが、下記2の場合は、算定期間に含めることができません」と説明しています。
引き継げなくなるのは、受け取れる日数を決める「算定基礎期間」です。受給できるかどうかを判定する要件(離職前2年間に被保険者期間が12か月以上、倒産・解雇等なら離職前1年間に6か月以上)とは別の軸で、次の職場で12か月働けば受給資格は改めて得られます。
同リーフレットが挙げる、算定基礎期間に含められない4つのケースは次のとおりです。
| 含められないケース | 算定基礎期間になる範囲 |
|---|---|
| 被保険者であった期間に1年を超える空白がある | 再就職後から離職までの期間 |
| 基本手当・特例一時金・再就職手当等の給付を受給した | 受給後の期間 |
| 遡及して被保険者となった(確認日から2年より前の加入) | 確認があった日から2年以内の期間 |
| 育児休業基本給付金の支給に係る休業期間がある | その休業期間を除いた期間 |
引き継げなくなるのは受給したときだけではありません
見落とされがちなのが1行目です。空白が1年を超えれば、失業手当を1円も受け取っていなくても、それ以前の期間は算定基礎期間に入りません。「もらわなければ必ず引き継げる」という前提は、退職後に1年以上のブランクができた時点で崩れます。
2行目も同様です。リーフレットは「基本手当・特例一時金・再就職手当等の基本手当に相当する給付」と書いており、基本手当をほとんど使わずに早期就職して再就職手当だけを受け取った場合も、算定基礎期間は同じように区切られます。
再就職手当には「過去3年以内の就職について、再就職手当または常用就職支度手当の支給を受けたことがないこと」という要件があります(再就職手当のご案内)。短い間隔で転職を繰り返す予定があるなら、今回の判断は3年先まで影響します。
もらわない選択で動く金額の試算【早見表】
所定給付日数の表によると、自己都合など一般の受給資格者の日数は、算定基礎期間1年以上10年未満で90日、10年以上20年未満で120日、20年以上で150日です。区切りは10年と20年の2か所しかないため、引き継げない影響は、次の離職でこの区切りをまたげるかどうかだけで決まります。
編集部が公式の日数表をもとに試算した例です。基本手当日額6,000円、退職から1年以内に再就職し、次の離職時も同じ日額と仮定しています。
| 前提 | 今回もらう | 今回もらわない |
|---|---|---|
| 勤続12年で退職 → 次の会社で8年 | 今回120日=72万円/次回90日 | 今回0円/次回150日 |
| 受け取る日数の合計 | 210日 | 150日 |
| 金額の差 | 約36万円多い | ― |
区切りをまたぐ場合でも、失われるのは30日分か60日分です。今回受け取れる90日分から150日分と比べれば、多くのケースで受け取る側が上回ります。基本手当日額の上限は令和8年8月1日から29歳以下7,450円、30〜44歳8,270円、45〜59歳9,110円、60〜64歳7,830円、下限は全年齢2,562円です(厚生労働省リーフレット)。
次の離職がいつになるか、そのときの年齢や賃金がいくらかは、今は誰にも確定できません。確実に手に入る今回の支給額と、条件が変わりうる将来の30日分を比べる構図で考えると、判断がぶれにくくなります。他の給付との組み合わせまで含めて整理したい場合は、社会保険給付金サポートの比較もあわせて確認してみてください。
よくある質問
Q. 失業保険をもらうと、次に転職したとき受給できなくなりますか?
受給資格そのものは失われません。次の職場で離職前2年間に被保険者期間が12か月以上あれば、改めて受給資格を得られます。
Q. 申請だけして受け取らなければ、算定基礎期間は守られますか?
算定基礎期間が区切られるのは「受給したことがある場合」です。実際に支給を受けたかどうかで扱いが分かれるため、申請の途中で就職が決まった場合などは、離職票を持参してハローワークで確認してください。
Q. 転職先が決まっている場合はもらわない方が得ですか?
入社日までに待期の7日間と給付制限(自己都合退職は原則1か月)を終えられるなら、基本手当や再就職手当の対象になる可能性があります。就職日の前日までに失業の認定を受けておく必要があるため、決まった時点でハローワークに相談してください。
Q. 病気で働けない間は、受け取らずに待つしかありませんか?
受給期間の延長を申請すれば、働けなかった日数のぶん受け取れる期限が後ろにずれます。延長できる期間は最長3年で、申請は延長後の受給期間の最後の日までできます。
Q. 受け取らなかった分を後からまとめて請求できますか?
できません。延長を申請していない限り、原則として離職日の翌日から1年で権利は終わり、残った分は消滅します。
判断する前に確認する3つのこと
- 離職票で算定基礎期間を確認します。10年・20年の区切りに近いかどうかで影響の大きさが変わります
- 今回受け取れる日数と金額を出します。多くのケースで、将来の30日分より今回の支給額が上回ります
- 働けない事情があるなら、受け取らないのではなく受給期間の延長を申請します
まずは離職票と雇用保険被保険者証を用意して、加入していた期間を数えるところから始めてみてください。数字が出れば、もらうかもらわないかは損得の比較として片づきます。
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